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ポップでキュートなノリタケ・アール・デコ

明治以降に海外へ輸出された陶磁器を収集・展示する横山美術館では、オールドノリタケの作品を数多くご覧いただけます。

オールドノリタケといえば、下の記事のようなきらびやかで華やかな花瓶や壺を思い浮かべる方も多いかもしれません。
※オールドノリタケの詳細についても下の記事に書いています。

上の記事のような作品は、複雑で優美な曲線を取り入れるなどアール・ヌーヴォー様式に影響を受けていますが、オールドノリタケにはアール・デコ風のモダンで洗練されたデザインの作品も多く存在していました。

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ノリタケのアール・デコ

アール・デコは1920~30年代に流行した装飾様式をいい、しばしばアール・ヌーヴォーと対照的に捉えられています。

アール・デコはアール・ヌーボーの優美な曲線や繊細な装飾性と有機的形態とは対照的に、直線と立体の知的な構成とシンプルな幾何学模様による極めて現代的な感覚を志向したもので、感情を排除し合理的な機能美を追求するものであった。従って、生産性においても量産を可能とし大衆化を図ることも重要とされたのである。

――森川崇洋『華麗なるオールドノリタケの世界』株式会社マリア書房、2007年より


オールドノリタケのアール・デコ様式の製品(以下:ノリタケ・アール・デコ)のはじまりは、大正11年(1922)にデザインスタッフの主任として、イギリスのシリル・リーを抜擢したことといわれています。
世界恐慌の影響で、昭和6年(1931)頃に姿を消してしまうまでのわずか約10年で、900種類以上ものデザインが生み出されたといいます。

ノリタケ・アール・デコは幾何学模様をはじめ、意匠化された植物モダンガールなどがモチーフとなりました。

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ノリタケ・アール・デコ最大の特徴、ラスター彩

ラスターは「光沢」や「輝き」を意味します。ラスター彩はノリタケ・アール・デコ作品に多く見られた技法であり、最大の特徴ともいえます。
金属や貴金属を溶かして作った陶磁器絵付用の絵具を使います。これを塗り、700℃前後の低い温度で焼成すると、下の写真のようなメタリックな輝きを発します。

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花の中に佇む人魚が可愛らしい花器。これは人魚ですが、親指姫を思い起こさせます。
ボウルの内側はパールラスター彩が施され、まるで貝殻のようです。


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ノリタケ・アール・デコは女性をモチーフにした作品が多いですが、こちらもその一つ。当時流行した、クリノリンスカートという裾が広がったスカートを模した蓋付のキャンディボックスです。



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冒頭の記事のような、大きな花瓶を現代の家で飾るのは少し難しいかもしれませんが、ノリタケ・アール・デコの作品は制作から100年ほど経った今でも「使ってみたい!」と思えるようなものが多い印象です。
例えば、上の写真は香水瓶ですが、大きさは高さ約15.5cm、幅約4.0cmと小ぶりなもの。ドレッサーなどに置けるかも…と考えてみるのも楽しいかもしれません。描かれた女性たちの膨らんだスカートもおしゃれな作品。


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こちらはラスター彩のコンディメントセット(塩やコショウなどの調味料入れ)。食卓に置いてあったら食事がより楽しくなりそうです。

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こちらも同じくコンディメントセットですが、ピエロがモチーフになっています。写真上部、黄色のセットにある真ん中の容器はマスタード入れでした。


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こちらは蓋が付き、小物などを入れられます。華やかに着飾った象の絵柄のバリエーションが豊富です。ラスター彩に加えて金彩が施されるなど、とても豪華に仕上がっています。






第一次世界大戦後、ノリタケの主な輸出先であったアメリカでは経済が急成長。高層ビルが次々建ったり、電化製品や自動車などが登場しました。

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過度な装飾からシンプルな美しさを持つ機能美が好まれたことが、アール・デコ風製品流行の背景にありました。
その生産期間は約10年と短いものでしたが、たくさんの種類の作品が作られたことから当時人気だったことがうかがえます。

ポップでキュートだけど、それだけでなく品もあるノリタケ・アール・デコ、ぜひご自身の目でもご覧ください。



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